2021年8月11日水曜日

ザ・フライ (1986)

1958年の「ハエ男の恐怖」をデイヴィッド・クローネンバーグが監督しリメイクしたもの。

クローネンバーグというと、すぐに思い出されるのはこの作品以外は「スキャナーズ(1981)」、「ヴィデオドローム(1983)」で、いずれもちょっとキモイ系SFで、いわゆるカルト映画と呼ばれる好きな人にはたまらんというもの。

そういう意味では、CGによる何でもあり以前のアナログの特殊視覚効果が全盛期の80年代に最も活躍した監督ですが、以後は時に話題性は提供するものの、あまり自分の記憶に残る仕事はありません。

若くしてノーベル賞の候補に上がるほどの天才科学者、セス・ブランドル(ジェフ・ゴールドブラム)は、パーティで知り合った雑誌記者のヴェロニカ・クエイフ(ジーナ・デイヴィス)に開発中の片方のテレポッドからコンピュータを介して隣のテレポッドへ物質を転送できる装置を見せます。しかし、生物の転送にはいまだ成功していませんでした。

ヴェロニカの何気ない言葉にヒントを得て、改良を重ねるうちに、二人は愛し合うようになります。そして、ついにヒヒの転送に成功したセスは、自らがポッドに入ってみるのですが、その時一匹の蠅がポットに入り込んでいることに気が付きませんでした。

転送は成功したものの、蠅をも取り込んでしまったセスは少しずつ隊長の異変が出現します。体力が上昇し、物凄く雄弁になり、転送によって不純物が濾過されて自分の真のポテンシャルが引き出されたとヴェロニカに説明しました。

しかし、体調の異変はさらに続き外見も崩れていき、セスは転送記録から蠅の遺伝子が融合してしたまったことに気が付きます。一方、ヴェロニカは蠅の遺伝子を含むセスの子を妊娠したことがわかり堕胎することにします。どんどん蠅化していくセスは、病院からヴェロニカを連れ出します。

ヴェロニカの元の恋人で今でもヴェロニカを付け回す雑誌編集者のステイシス・ボランズ(ジョン・ゲッツ)は、ショットガンを用意してセスの研究所に乗り込みますが、消化液で手足を溶かされます。

セスは完全に昆虫化し、妊娠しているヴェロニカをポットに入れ自分との融合を試みますが、直前にステイシスがヴェロニカのポッドの連結ケーブルを撃ち抜いたため、セスはポッドとの融合を起こすのでした。転送先から出てきたセスは、ヴェロニカが構えたショットガンの銃口をじぶんに向け引き金を引かせるのでした。

SFスリラーとしては高評価ですし、クローネンバーグの代表作と言える映画ですが、同じようなグロテスクなクリーチャーを得意とするジョン・カーペンターとはだいぶテイストが違う。怖がらせるだけでなく、ある種の嫌悪感を抱かせるところは否定できないでしょう。

もっとも、元が蠅男ですから気持ち良く仕上げようが無いわけですが、そう何度も見返したくなる話じゃありません。今では大御所になったジェフ・ゴールドブラムが、大きな目で熱演しているんですが、どこまでが本人の演技なのかはよくわからない。おそらく変身していく途中からは別人がメイクで演じているようですし、最後は完全に人形です。

やっとパソコンが一般にも使われるようになったばかりの時代ですが、映画に登場する装置を制御するコンピュータは、当時はずいふんとかっこいいなと思った記憶があります。テレポッドも小型の宇宙船のようで、特殊メイクだけでなくこれらのガジェットにもかなり力が入っているのがわかります。

ヴェロニカが出産したセスのこどもはどうなったかって? 3年後に続編の「ザ・フライ2 二世誕生」が作られましたが、クローネンバーグはまったく関与せず、映画としてはほぼ無かったことにしましょうという評価になっています。蠅が大好きな人だけどうぞ。