年末年始診療 12月29日~1月5日は休診します

年内は12月28日(土)まで、年始は1月6日(月)から通常診療を行います

2024年1月7日日曜日

PHEVへの道 10 全固体電池って何?


日本ではホンダが、昨年春に「2040年までにEV・FCEV販売比率をグローバルで100%にする」という目標を宣言しました。これは、その他大勢の自動車会社に転落したホンダの起死回生の策と言えるかもしれません。ただし、知識と技術が現時点では追い付いていないことははっきりしているので、失敗して信用を失墜させる可能性もはらんでいる。

トヨタの豊田章男会長が、わざわざホンダのヴェゼルを運転する動画をネットに上げ「いい車だ」と持ち上げたのも、先走ったホンダ戦略に何かしら言いたいことがあるのかと勘繰りたくなります。これまでトヨタは批判の目にさらされながらも、じっと全方位(マルチ・パスウェイ)戦略という開発方針を提示してきました。

トヨタの全方位戦略は、実現できている技術力をもとに、ガソリン車、HEV、PHEV、BEV、そしてFCVなどのさまざまな方式の中から、それぞれの人々が自分の生活に合った選択の中で、次第によりカーボン・ニュートラルに近づいていくという、きわめて現実的なもの。ホンダの宣言は、16年後に「すべて病気を根絶します」と言っているようなもので、数字としては可能でも企業としては利益が出なければ成功とは言えません。

世界中の企業が、カーボン・ニュートラルを達成するために最も重要と考えているのは新しい電池の開発です。昭和の時代には、携帯できる乾電池が登場しただけで「電気を持ち運べる」という技術革新がありました。しだいにより大容量・小型化が進み、現在では車で使われているのはニッケル水素電池かリチウムイオン電池が主流ですが、多くの電気容量が求められるBEVではリチウムイオン電池一択です。

従来の電池は液体電解質が用いられていて、電解質の発火・劣化・蒸発といった問題点があり、リチウムイオン電池でも同じ。今以上の小型化も難しく、自動車の使い勝手をさらに良くしようとしても重量の問題で限界に来ています。そこで安全性を高め、より大きな容量を可能とすると期待されているのが全固体電池(Solid State Electrolyte)で、実はその開発は100年ほど前から始まっていました。

全固体電池は、正極と負極の間を液体である溶媒ではなく固体で埋めるもの。両極間のイオンの移動が格段と早くなり、液体の場合の過熱・蒸発がありません。利用される固体には、硫化物系、酸化物系、ポリマー系の三種類が開発されています。硫化物系はイオンの伝導率が優れていて、酸化物系は高出力に有利と言われています。

もちろん問題が無いわけではなく、高出力を得ようとすると固体部分に亀裂が生じやすい、あるいは硫化物系は水と反応すると有毒な硫化水素を発生させる危険があります。これらの課題を解決して実用化すめための取り組みは、21世紀になって本格化し、自動車分野では2020年にトヨタが世界に先駆けて試作車を公開しました。さらにフォード・BMW、日産、中国企業なども全固体電池への取り組みを発表しており、生産力が追い付けば今後数年以内に一般向けの搭載車両が登場することは間違いありません。

全固体電池を搭載すれば、従来より非劣化・小型化して10~20倍の電池容量が可能とされ、安全性が高まることでより高い電流での充電も可能になります。昨年秋に、トヨタは出光興産と共に、硫化物系全固体電池の量産に向けた取り組みを発表し、10分間の急速充電で1200kmの航続距離が得られるだろうとしています。早ければ2027年に搭載車を世に送り出したいらしい。

しかもトヨタの実にうまいのは、いきなりBEVに搭載するのではなく、まずはHEVで実用化しようとしているらしいところ。HEVならば量産化しやすい少ない電池でより大きい出力が得られ、なおかつ大容量へのステップアップにもつながるという考え方です。

トヨタは、従来の電池の改良研究も同時進行しつつ、次のステップでは充電不要の電気自動車の開発にも着手している。充電不要というのは、車の太陽光電池を使うということ。現状では太陽光パネルをオプションで装備すると、年間で平均的な天気で1200km走行できる発電量がありますが、それだけで足りると言う人はまずいませんし、そもそもずっと屋根なしの屋外駐車しないといけないという制約もあります。

じゃあ、どうするか。従来の物はシリコンパネルを使用しますかせ、トヨタが開発しているのはペロブスカイト型と呼ばれ、桐蔭横浜大学教授、宮坂力教授が発明したもので、車全体に張めぐらすことができれば、通常の使用では充電の必要が不要なほどの発電ができると言われています。

全固体電池を搭載したBEVは最終解答ではなく、あくまでも燃料電池車(FCV)が普及するまでのブリッジング・メソッドかもしれませんし、そもそもFCVも終わりではない。技術革新はとどまるところを知らないようです。