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2024年1月21日日曜日

PHEVへの道 20 いつかはクラウン


「いつかはクラウン」というのは、80年代前半にトヨタが自社のフラッグシップ・モデルであったクラウンの宣伝に使ったキャッチ・コピーです。いつかはクラウン(のような高級車)を運転したいものだという一般ドライバーの心理をうまくついた、かなり上から目線の誘惑心満載の決め台詞でした。

当時はトヨタの販売チャンネルごとに売る車種が別々でしたが、そのころから運転を始めた自分はたまたま近くにあったという理由で関りを持ったディーラーが神奈川トヨタでした。唯一クラウンを扱っていたチャンネルなので、しばしばこのコピーを店で聞かされたものです。

その頃は、トヨタは「C」から始まる車名ばかりでしたが、カリーナ、コロナ、セリカなどのメイン・ブランドが消え、今残っているのはセンチュリー、クラウン、そしてカローラだけです(カムリがありますが、これは21世紀の登場)。

センチュリーは別格として、21世紀に入ってカローラは大衆車というより商用車として一般ドライバーは避けるようなブランドに格下げされたし、高級セダンのみのクラウンも官公庁や会社の偉い人が後ろに乗る車、あるいは警察車両か個人タクシーというイメージが固まった感じでした。

創業家出身の豊田章男氏が2010年に社長に就任して、今のトヨタ一強時代を作り上げたことでその手腕はいろいろと高く評価されていますが、自分たちにわかりやすいポイントの一つがカローラ・ブランドの復活です。

1966年に初代が発売されたカローラは、一般向けの価格で人気となり様々な展開が行われたのですが、他車・他社の選択肢が増えるにつれ忘れられた存在になっていました。しかし、2018年に12代目となる現行モデルで、外観も性能も大きく刷新され「買いたい・乗りたい車」としてブランドが再生されたことは驚くばかりです。

そして、もう一つのポイントがクラウンの刷新です。1955年の初登場以来、高級車として販売され続けたクラウンは、いくら「いつかはクラウン」と言われようと一般人からすると無関係なブランドとして定着してしまったことは否めない。基本的に運転手が別にいて、自分は後部でゆったりしている車のイメージの代表格なのです。

クラウンには80年代から、通常のロイヤル、高級インテリアのマジェスタ、性能強化のアスリートという3本柱がありましたが、いずれも4ドア・セダンというエクステリアはほぼ共通でした。

トヨタが高級路線をレクサスに集約したことで、トヨタとしてのクラウンの存在理由が希薄になってきた2022年に、先代からわずか4年でフルモデル・チェンジした次期モデルが発表され、時代の流行とはいえ、クラウンがSUV化するというニュースに世間は驚かされました。


16代目となるクラウンは、異なる外観と異なる性能を持つ4種類のシリーズとなり、従来の高級感は維持しつつ多様なニーズに応えられる新しいサブ・ブランドとして再出発することになったのです。

2022年7月、最初に発売されたのがクラウン・クロスオーバー。基本的にはセダン・タイプですが、SUVとの融合(クロスオーバー)で基本グレードはRSとGの二つ。トヨタは「RS」は、「Runabout Sports」の略としていて、走りの楽しさを追求するモデルに冠しています。

Gグレードは、2.5L直列四気筒エンジンに前後モーターを搭載してFFベースの電気的4WDですが、RSには2.4Lターボエンジンを搭載し後輪モーターも強化されています。それぞれに装備を強化したAdvancedモデルも用意されています。

2023年10月、完全なSUVであるクラウン・スポーツが発売されます。当初はHEVのグレードZのみですが、遅れて12月にはPHEVのグレードRSが発売されました。基本的な外観は、トヨタの新しい顔であるハンマー・ヘッド・シャークをモチーフにした点はニュー・クラウン・シリーズとして共通ですが、スポーツでは全長を減らし全幅を広げた「塊」のあるごついボディで、特に後方の筋肉質な張り出し感が圧倒します。

どちらのグレードも、2.5L直列四気筒エンジンと前後モーターによるFFベースの電気的4WDはクロスオーバーGと同じ。ただしPHEVであるRSは前輪モーターを強化、走るための装備もパワーアップさせています。

2023年11月に登場したのがクラウン王道のセダン。正式な車名は「クラウン」だけです。まさに後部座席でくつろぐための装備が充実し、従来のユーザーが満足する仕様になっています。クラウンの特徴だったFRで2.5L直列四気筒エンジンによるHEVと、驚いたことにMIRAI一択だったFCV車が合わせて用意されました。

2024年3月に発売予定されているのがクラウン・エステート。エステートというのはヨーロッパ風の呼称で、従来のステーション・ワゴンのSUV風の物を意味します。クラウンのステーション・ワゴンは60年代の2代目から「バン」として登場し、1999年の11代目でエステートと改称し2007年まで販売されましたが、12代目で廃止されていました。

今回新たに、そして他の新シリーズと意匠を異にして登場するエステートは、SUV風に生まれ変わっています。パワートレインはまだ詳細は不明ですが、HEVとPHEVの2種類で、おそらくスポーツと同じような仕様になると思われます。

クラウンですからもちろん高級感は維持しつつも、クラウンを運転してみたいと改めて思わせる革新的な展開はさすがと言わざるをえない。外観だけでも先進的な、いわやゆるスタイリッシュなかっこよさは群を抜いていますし、パワートレインはFFもFRもターボもあり、そしてHEVもPHEV、さらにFCVもありという多彩なバリエーションが用意されていることは特筆すべき点でしょう。

高級路線を目指したはずのレクサスが次第に大衆化している現状なので、トヨタは新たに「クラウン」を高級ブランドとして独立した位置づけにしていく方向性が見えてきます。実際、クラウンのみを扱う専門店も横浜と福岡にできました(何と横浜は都筑区にあります)。今後、新たなバリエーションが出てくる可能性もありそうで楽しみです。