2014年3月17日月曜日

J.E.Gardiner / J.S.Bach Complete Secard Cantatas

指揮者ジョン・エリオット・ガーディナーは、そのキャリアにおいて、バロックからスタートし、古典に進出。手兵と呼ばれるEnglish Bloque Solists (EBS)とモンテヴェルディ合唱団を、きっちりと統率して古楽系の音楽家として確固たる地位を築きました。

作曲家としてはJ.S.バッハを最も得意として、モンテヴェルディ、パーセル、プーランクなども重要なレパートリーにしてきました。さらにハイドン、モーツァルトにもおよび、ついにベートーヴェンからは新たなオーケストラであるオルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロ マンティーク(ORR)を組織します。

ORRとはベートーヴェン以外にも、ベルリオーズ、ブラームスなどを次から次へと演奏してきましたが、さらにその先となると、古楽にこだわらずウィーンフィルなどのモダンオーケストラをうまく使ってきました。

自分の場合は、ガーディナーのおかげで、だいぶ聴くだけのレパートリーですが、苦手だった声楽をなんとか克服できそうな感じになってきました。ただし、そうは言ってもオペラはまだ無理。ドイツ語やイタリア語のセリフが理解できませんし、視覚的に舞台が見えないと、どうもぴんとこない。

ただ、オペラも、今で言ったらミュージカルですから、DVDなども増えてきているので、日本語字幕付のものであれば、今後何とか楽しめるようになるかもです。

さしあたって、聴くことができる声楽は宗教曲に限られています。ただ、何が難しいって、やはりキリスト教の理解なくしては面白さが伝わってこないこと。

なんちゃって仏教徒で、実際は無信仰に近いので、まして異国の宗教については歴史の勉強みたいなもので、そうは簡単に理解はできません。そこで最近はネットが重宝するわけで、クリスチャンでもないのに教会のホームページをのぞいたりしているわけです。

ガーディナー先生とは逆で、最初はベルリオーズからスタートして、次は世界三大レクイエム(モーツァルト、フォーレ、ベルディ)、ベートーヴェンからいよいよJ.S.バッハにたどりつきました。

バッハというと、今までは苦手な声楽を除いて、器楽曲ばかりを聴いてきました。もちろん全部で1000曲以上あるので、器楽曲でもかなりの数ですが、本来教会音楽家として生きてきたバッハのことですから、宗教曲の数といったらそりゃもう膨大です。

さすがに、マタイ受難曲とかロ短調ミサ曲という有名どころのタイトルは知ってはいました。古くはメンゲルベルクのマタイ(1939)は観客のすすり泣きが聞こえるというような伝説のような話も聞いたことがありますが、実際それがどんな内容の曲かは気にも留めませんでした。

今頃になってわかったのは、受難曲というのはキリストがローマ帝国から危険人物として注目され、最後の晩餐をへて捕らえられ十字架にかけられる。そして復活して神になるという一連の新約聖書のストーリーだったんですね。

となると、話としては比較的馴染みがある。だいたい好きなミュージカルの一つである「ジーザス・クライスト・スーパースター」がまさにその話じゃないですか。キリスト教徒の方に怒られるかもしれませんが、映画の''47 ronin''を見るか、歌舞伎で「仮名手本忠臣蔵」を見るかみたいなところと一脈通じる。

さらに、教会の暦にしたがって毎週演奏するように作られたカンタータが、なんと200曲もあるわけで、無謀なことにこれらも全部聴いてみようと思い立ってしまいました。

そうなると教会暦というものを理解しないといけないわけで、これがまた複雑なんですね。固定の祝日というのは少なくて、重要な記念日は年によって大きく移動する。とにかくキリストの誕生日のクリスマスから1年が始まるというのは知っていましたが、通常の春夏秋冬のようにきっちり分けられているわけではありません。

本当なら12月から聴き始めるのがいいんでしょぅが、時はすでに3月。幸いなことに、只今「四旬節」の真っ只中。これはキリストの受難と復活までの準備期間で、謹慎して静かにしていないといけないらしい。ですから、3月に演奏されるべきカンタータというのは少なく、お休み期間になっています。

今年は3月25日が「マリアのお告げの祝日」となっていて、これは受胎告知として知られているマリアがキリストを身ごもったことを神から教えられた日ということになっています。いよいよここから、毎週いろいろな行事とともにカンタータなどが演奏されるので、これに間に合わせることにしました。

そこで登場するのが、カーディナー先生の作ったカンタータ全集。昨年秋に発売されたCD56枚組みの巨大ボックスです。

これは2000年から始まったプロジェクトですが、実は収録されたのは1999年のクリスマスから2000年のクリスマスまでの1年間。ガーディナー先生は、実際の教会暦に合わせて世界中の教会で、その時にふさわしいカンタータを毎週演奏するという、実に壮大な計画を実行したわけで、そのときのライブ演奏を10数年かけて、こつこつと発売してきたということなんです。

1年間の間、毎週新しい曲を演奏し続けるというのは、練習もさることながら、移動なども考えると、相当大変なことだったというのは、自分でも理解できるところ。そもそも、最初はARCHIVから発売されたのですが、4枚だしたところで採算が取れそうに無いとARCHIVが降りてしまい、計画は頓挫しそうになります。

そこでガーディナー先生は、自らSDGレーベルを立ち上げ、残りの録音を毎年数枚ずつこつこつと発売してきました。これには、かなりの寄付もあってのことだという話もあります。SDGは''Soli Deo Gloria''で、マタイ受難曲の直筆譜の最後に記された言葉で、「ただ神にのみ栄光を」という意味。

全集発売にあたっては、ARCHIVから先行した4枚もボックスに含めることができたので、ガーディナー先生の偉業は完全な形で残されたわけです。すでに4大宗教曲についてはARCHIVでの録音があり、これらを含めて教会暦に沿って聴いていけば、バッハの宗教曲を制覇することは夢ではありません。

さて、何とか1年間続けられるか不安はありますが、なにしろ能天気な無神論者ですから、とにかく楽しめればいいじゃんくらいののりで乗り切りたいと思うわけです。