2007年9月25日火曜日

The Controlled Health Part2

Part1からお読みください

「わが国は資本主義の原理に基づいた国家運営をしております。幸い、随分前から格差社会は完成し、裕福な人たちはあまり問題はありません。かれらには、医療保険、介護保険に次ぐ第3の保険、救急保険に加入してもらうのです。この分の上乗せで診療報酬を増やせば、医者もやる気が出ます。救急車と病院と契約を結んでGPS付のICカードで健康を管理し、何かの時には24時間の受け入れを保証します」
「貧乏人はどうすんじゃい。のたれ死ね、ちゅうんかい」
「いえ、そんなことは言いたくても言えません。救急保険に加入するお金の無い方は、各行政区画ごとに1ヶ所ずつ夜間のみの救急病院を設定して、そこへ集めます。あとは国税・地方税額に応じて、サービスを分けていくのです。受け入れ先さえ用意できれば、国民からの批判はかわせます」
「うーん。他に意見もないようでしたら、その方向で答申しましょう」
次官のことばに、だれも首を振らず、とりあえず何か仕事をした満足感が委員会に漂うのであった。

数ヶ月して、救急保険が開始された。生活に余裕のある人は保険契約を結び、高い保険料を払ってICカードを手に入れた。利用すると次回の保険更新時には保険料が上がり、利用しなければ保険料は少し下がる。病院職員の時間外勤務手当てや、医者の救急受け入れ手当てを出すことができるようになったので、病院側も積極的に取り組むようになった。

しかし、救急保険外患者用夜間救急病院は滑り出しから問題であった。まず、ほとんどの病院が指定を拒否してきたのである。運営するだけの予算も人員も無いというのがその理由であった。政府はしかたがなく、特別補正予算を組んで、夜間用の医師・看護師をはじめとする病院職員を特別公務員として採用し、夜間の病院を借り受ける形式を採用した。
また、役所とオンラインで結び、患者が来ると即座に納税状況を確認し、ランク付けを行うシステムを導入した。納税状況と病気の内容とから、医療サービスの等級が決定されていく仕組みである。包括化医療の進化系であり、どこまでの医療を受けれるかがはっきりしており、また救急的でないものについては、マイナスポイントが加算され、次年度の納税額に反映されることになった。

当初は、混乱もあったが、国民は冷静に受け止め、また各メディアも一丸となって安心な医療を確保しようとキャンペーンをはったためか、しだいに軌道に乗った運営が行えるようになった。救急保険に加入しなかった国民は、簡単なことでは救急車を要請しなくなり、また納税額を上げて少しでも良質な医療を受けようと考えるようになった。その結果、高齢化で落ち込む一方であった国民総生産が数十年ぶりに上昇するという事態になり、しだいに景気も良くなってきた。

街ではあちこちで、井戸端会議が行われている。この光景は、もう何十年と変わらないものだ。
「30階のスズキさんは、いよいよ救急保険に加入されたんですって」
「まぁ、うらやましい。うちは、まだ無理よ」
「14階のサトウさんは、この前便に出血して夜間医療センターに運んでもらったのよ。そしたら、てっきりガンと思ったらただの痔だったんですって。マイナス3ポイントよ」
「この前も同ような感違いしたわよね。もう、あとがないわよ」
「今度、自分で判断する救急疾患の講習会があるのよ。奥様、一緒にいきませんこと」
「あら、それは絶対いきたいわ」

厚生労働省では、いつもと変わらず行うことが目的の会議が行われていた。いつもの次官が切り出した。
「おかげさまで救急保険制度は順調で、いろいろな副次的な効果も派生しております」
「そやな、わてら有識者は、初めからこうなることはわかっとったんや」
「ほな、今日はもうええやろ。終わろうやないか」委員は立ち上がり、のそのそと出口に向かう。
最後に立ち上がった委員が隣の若い委員に声をかけた。
「それにしても、あんさんもええ商売しなすった」
「いえ、それほどでも」
「隠さんでもええ。あんさんのICカード会社は、カード販売、カード更新、読取機販売、さらにGPS利用料、これからずっと収益が減ることはないやろ」
「これも国民の皆様のためですから」
「ふ、ふ、ふ。次は何を考えているかわかるで。ICカードに蓄積されていく健康情報やろ」
「よくお気づきで」
「究極の個人情報やからな」
「ええ、たぶん数年後には、ほとんどすべての国民の健康管理を行うのは私の仕事になります。どんな健康産業も私の情報のもとに動くようになるでしょう」

(つづく)

この話はフィクションです。