2007年9月30日日曜日

関節リウマチの21世紀型アプローチ

関節リウマチの治療方法は、20世紀に発病した方と21世紀に発病した方では大きく違います。
自分が学生の頃に、授業で習った治療法方はピラミッド式と呼ばれています。最初は副作用の比較的少ない痛み止めを中心に使って関節痛を減らすことで、日常生活をこなせることが治療の目標でした。しかし、必ず関節の破壊が進行するので、痛み止めだけでは足りなくなると副作用の危険がある抗リウマチ薬を使用します。さらに痛みが減らない場合は、副作用のデパート副腎皮質ステロイドを使います。

しかし90年代くらいからリウマチの病態の解明が進み、異常な免疫、つまり自分の関節に対してのアレルギー反応を押さえ込むことが大変重要で、そのためには抗リウマチ薬を早くから使っていこうという考え方に代わったのです。そして1999年に抗がん剤として使われていたメソトレキセートという免疫を抑制する薬が、抗リウマチ薬として日本でも使えるようになったことは、「革命的」と言ってもいいかもしれません。

メソトレキセートは、整形外科にはなじみのある薬なのです。整形外科では骨肉腫という骨の「ガン」を扱います。ほとんどの患者さんは10歳代で、大変予後の悪い病気です。メソトレキセートは骨肉腫の化学療法の中心的な薬なのです。自分も大学では何人かの患者さんを持ち、メソトレキセートを使った経験があります。一度使って、もしも何もしなければ確実に1週間後には患者さんは副作用で亡くなるぐらいの怖い薬なのです。ですから、抗がん剤治療を始めると、本当に神経が疲れました。

そんな薬がリウマチに効くらしいという話を聞いて、最初は「うそー、ほんとぉ?」という状態でしたが、いざ使ってみると本当によく効きます。骨肉腫で使う量の1/1000~1/2000くらいなので、もちろん使うそばから患者さんが亡くなるような心配はありませんが、それでも通常の痛み止めとは違い、副作用は大変に怖く、定期的な通院をしてもらう目的の半分は副作用のチェックなのです。

さらに2003年に生物学的製剤という新しいタイプの薬が出てきました。これは関節リウマチの悪さをしている主役を直接攻撃するため、それまでの抗リウマチ薬にくらべ強力な効果が期待できます。実際、使ってみると内服薬なら数ヶ月かかって効果が出て来る所が、わずか数週間以内、場合によっては数日以内に出てきます。自覚症状はもちろん、血液検査も劇的に改善します。もちろん、副作用のチェックも含めていろいろな注意が必要ですから、飲み薬をポンっと出すより、いろいろ手間もかかります。しかし、おそらく数年後には第一選択薬としての地位に落ち着くのではないでしょうか。

そして、実は診断学も変わってきているのです。昔は「リウマチ反応陽性」で「あなたはリウマチ」と言ってしまうことが多かった(実は今でもそう思っている医者が多い)のですが、血液検査で絶対な物はひとつもありません。症状と血液検査とレントゲンから総合的に判断するしかないのです。

ところが、昨年からはMMP3という検査項目が使えるようになりました。これはリウマチの病気の勢いを判定するのに大変に役に立ちます。そして、今年からは抗CCP抗体という検査ができるようになり、今まで以上に診断の精度をあげることができるようになりました。ちなみに自分の印象では抗CCP抗体の陽性になる割合は、まちがいなくリウマチだろうと考えている方では100%、絶対違うと考えている方では0%、そしてどっちか判断しずらい場合は50%という具合で、非常に臨床にそくした結果が得られると考えています。副作用の強い薬を使うのですから、使う根拠は明確なほうがいいに決まっています。

薬物療法の進歩により、実はリウマチ患者さんの手術は激減しています。関節が壊れてしまうと、もはや薬ではなおせませんので、手術が必要になりますが、生物学的製剤は骨破壊抑制効果が大変強いので、この薬が主流になれば人工関節のような手術はしなくてすむようになるのです。ということは、薬の効かない一部の患者さんを除くと、ほとんど外科的な病気ではなくなるということです。ですから、整形外科は将来的には不要になるのではないかと思っています。

自分のような「整形内科医」は今迄以上に内科的な知識を勉強する努力をしなければいけません。そして、内科の先生は整形外科がリウマチから離れていくことを考えると、リハビリテーションや装具などの勉強をしてもらいたいと思います。