2023年2月11日土曜日

初雪らしい初雪


天気予報は・・・まぁ、だいたい当たりますが、こと災害につながろうかという天候については、やたらと大袈裟に言うことが増えたような印象があります。

たいしたことは無いと言っていてとんでもないことになると、後で痛烈に批判されるご時世なので、それも危機管理の現れなのかもしれませんが、どうも肩透かしになることが多い。

昨日の天気予報は雪。それも大雪になるかもしれないので、不要不急の外出は控えろ・・・と、テレビで散々伝えていました。

確かに朝から雪。お昼ごろは、けっこうな勢いで降っていましたし、土のところは白くなり出した。先週でしたか、ちらりと埃が舞う程度の雪はありましたが、雪らしい雪ということでは、昨日が横浜の初雪というところ。

でも、次第に雨に変わり、夜にはほぼ雪は溶けている状態で、雪がった痕跡があるかな程度。生活の利便を考えれば、大人としてはよかったと思うところなんですが、何か天気予報に振り回されている感じも無いわけではありません。

もっとも、地域によっては積雪で深刻な被害を受けている所もあるわけですから、天気予報を非難するのは筋が違う。あくまでも可能性の情報として、各自が自分の責任において行動しないといけないというところでしょうか。

2023年2月10日金曜日

Andrew Manze / Tartini Devil's Sonata (1997)

17世紀のヨーロッパの音楽の中心はイタリアであったことは間違いなく、テレマン、ヘンデル、そしてJ.S.バッハらによってドイツ・バロックが隆盛を迎えるのは17世紀末の話。イタリアでは、今でも人気を誇るのはバロック前期ならモンテヴェルディ、バロック後期ならヴィヴァルディ、古典になるとパガニーニとかです。

有名人の影に隠れて、「知られざる作曲家」はいろいろいるわけですが、ヴィバルディとほぼ同世代に修道僧でありヴァイオリンの名手といわれたのがジョゼッペ・タルティーニでした。

タルティーニは1692年にヴェネチアに生まれ、研究熱心な理論派のヴァイオリン奏者でした。作曲家としては、ヴァイオリン曲だけが残されていて、当時の重要な仕事だった教会音楽や歌劇は作っていないようです。ただし、出版された協奏曲は125曲もあるというから驚きです。

中でも、ほとんど知られている唯一の曲が「ヴァイオリン・ソナタ ト短調」で、通称「悪魔のトリル」と呼ばれる曲。原題でも 「Il trillo del diavolo」で、そのまんま。

なんでも、寝ていたタルティーニの夢に悪魔が出てきて、ハッとする素晴らしい旋律を奏でたので、目が覚めたタルティーニはすぐに楽譜に起こしたという逸話が残っています。悪魔のように難しいトリルが出てくるということではありません。

トリルはヴァイオリン奏法のテクニックの一つで、半音または一音上の音を指で細かく混ぜて弾くこと。聞いていると「ティロリロリロ・・・」みたいな感じ。トリルだけに限らず、かなり高度のテクニックを要する難曲と言われていて、基本的にごく軽めの鍵盤楽器伴奏が付くだけで三楽章、約20分という演奏時間ですから、演奏する人はかなり緊張するんでしょうね。

マンゼは、1965年生まれのイギリス人。トレヴァー・ピノックの後釜としてイングリッシュ・コンソートを率いているので、古楽系が好きな人には馴染み深いバロック・ヴァイオリンのベテランです。

このCDのすごいところは、無伴奏というところ。聞く方は、すべてヴァイオリンの音だけに集中することになりますから、これはごまかしがきかないので相当の覚悟と自信があってできることだと思います。

現代女流奏者のトップに君臨するA.S.ムターの録音もありますが、弦楽オケの伴奏がついて主旋律中心の「わかりやすい」演奏になっています。マンゼは、主旋律に装飾音を追加して自分で同時に伴奏もしている雰囲気。オリジナルの指定がどうなっているのかわかりませんけど、その分難易度は格段と上がっている感じです。

2023年2月9日木曜日

Ysaye Quartet / Franck String Quartet (2006)

セザール・フランクは、1822年にベルギー生まれ、13歳以後はパリで過ごした作曲家なので、一般にはフランスの音楽家として認知されています。後年、サン=サンーンス、フォーレらの有名な作曲家と共に国民音楽協会を設立しています。

ドビューシー、ラベルらの印象派と呼ばれる、いかにもフランスらしいクラシック音楽が主流になる前の中心人物の一人と言える存在なんです。

じゃあどんな曲があるのと問われると、たぶんヴァイオリン・ソナタ一択というところ。ヴァイオリン・ソナタ以外には何があるのかと言われても、よほどの愛好家でないと答えられそうもありません。

クラシックのヴァイオリン奏者では、フランクのソナタを弾かないという選択肢は無いかのように多くのCDが発売されています。また、そのままチェロで演奏されるように転調・編曲されたバージョンも普及していて、多くのチェロ奏者も重要なレパートリーと位置付けているようです。

人生の多くをピアニスト、教会オルガニストとして過ごしたフランクが、作曲に本腰を入れたのは中年になってからなので、作品数がそれほど多くはありません。それでも、交響詩、ピアノ独奏曲、オルガン曲、オラトリオなどのある程度の作曲があります。

このアルバムは、CD2枚で残された室内楽作品を「だいたい」網羅したもの。1枚目は弦楽四重奏曲、2枚目はピアノのパスカル・ロジェが加わり、ピアノ五重奏と必殺のヴァイオリン・ソナタという構成です。

もともと鍵盤奏者であるフランクですから、かなり弾きこなすのに技巧を必要とするピアノ曲があるようですが、室内楽の伴奏部分でもピアノ奏者は指の筋トレをしているかのような難易度があるらしい。

ここでは、弦楽四重奏とピアノ五重奏に注目するわけですが、うーん、正直に言うとあまり面白くない。個人の好き好きなので、ご容赦いただきたいのですが、特徴的な半音階多用によるやや不協和音的な響きが続き、もやもやした印象がずっと続く感じ。

まぁ、コレクターとしては一度は聞いておくべきもので、フランクの曲の中ではヴァイオリン・ソナタが人気を維持できているというのも理解しやすくなるかもしれません。

2023年2月8日水曜日

自宅居酒屋 #55 時にはしくじることもある


居酒屋で出せそうな・・・簡単で手早く、そして肴にもなるレシピをいろいろとやってみているシリーズなんですが、ある意味、冷蔵庫の残り物処理的な面もある。

そろそろ賞味期限切れとか、乾燥したり色が変わってきた野菜とか、捨てることになる前に何とか食べ切ろうという時、そのままじゃイマイチなので、適当に味を付けてみたという感じ。

そんなわけで、時にはこれは無理だったという、どう見てもしくじり例も時にはあるんです。まぁ、こういうのも反面教師みたいなところなんで、反省し今後にいかしていくことが大切です。

今回紹介するしくじりは、ごはんのお供の定番、「瓶詰めエノキ」を使った和え物。そろそろ賞味期限が近づいてきたので何とかしようと思い立ち、大根・キュウリの千切りと和えてみました。

う~ん、う~ん、う~ん・・・ごはんとならちょうど良いはずのエノキですが、こうやって食べると・・・甘すぎる。塩味も強いので、野菜がすぐにしなしなになってしまい、何かフニャフニャした食感です。

酒のお供としては、好き好きはあるというものの、うちでは却下のメニューとなりました。

2023年2月7日火曜日

自宅居酒屋 #54 菜の花辛子和え


最近は生産者の努力で一年中流通する食材が増えて、「旬」の食べ物が減った感じですが、春が近くなるとスーパーに並ぶ「菜の花」は、基本的にこの時期だけのもの。

食によって季節を感じるというのは、昔は当たり前のことでした。これも日本人の感性を育てた大事な要素ですから、季節感を意識することは悪い事ではありません。

菜の花は、食べ方の定番は辛子醤油で和えるというもの。茹でる、和えるという2ステップでできるので、ほとんどレシピらしいレシピも無いくらい簡単。

そこらの原っぱに生えているものと、食用にするものは多少違うようですが、基本的には若い花芽が出てきたころを摘み取って食べる。そもそも菜の花の「菜」は食用という意味。

ビタミン豊富な黄緑色野菜の一つとしてもポイントが高く、抗酸化作用のβカロテンの含有量も抜群に多いので、この時期に一度や二度は食べておきたいものです。



2023年2月6日月曜日

Antje Weithaas / Bruch Complete Violin Concertos (2013-15)

音楽界には、一つだけある大ヒット曲だけで一生活躍しているような、いわゆる「一発屋」と呼ばれる人たちがいますが、クラシック音楽の作曲家にも似たような存在があったりします。

例えば、ハッチャトリアン。必ず小学校の音楽の授業とかで「剣の舞」を聞かされたと思いますが、何だかテンポの速い威勢の良い曲で妙に耳に残る。でもハッチャトリアンって、それ以上知っている人はまずいない。ロシアの人で、1903年生まれで亡くなったのも1978年ですからけっこう最近の人。

イギリスのホルスト(1874年~1934年)はどうでしょうか。はっきり言って、組曲「惑星」、それもその中の「木星(ジュピター)」しか知られていません。クラシック好きでも、その他の作品を一つでも知っていたら拍手喝采物です。

マックス・ブルッフも、そんな一曲だけが有名な作曲家の一人。何故か、「ヴァイオリン協奏曲第1番」だけは、演奏しないヴァイオリン奏者を見つけることは至難の業と言えるくらい、必殺の有名曲です。

ブルッフは1938年、ケルン生まれのドイツの人。同時代人にはブラームスがいて、当時のドイツの音楽界は、はワーグナー派とブラームス派に分かれてかなり敵対していたらしい。ブルッフは、終生、ブラームスを兄貴分として敬愛していました。

非常に魅力的なメロディを生み出す人で、ところどころに印象的なフレーズが散りばめられ、ムードだけに流されないところが良いと思います。以前にも室内楽で取り上げていますが、あまり知られていないのが残念な作曲家です。

ヴァイオリン協奏曲も「第1番」と言うくらいですから、実際2番、3番がある。やたらの「Complete Edition」とかばかり作っているレコード会社なんだから、1番出すなら全部で企画しそうなものですが、たいてい他の作曲家のヴァイオリン協奏曲との抱き合わせのアルバムばかりが登場しています。たぶん、今までに全部録音しているのはイ・ムジチ合奏団で有名なアッカルドだけじゃないかと思います。

となると、そういう仕事はマイナーなレーベルに期待。室内楽も出していたドイツのCPOレコードは、そういう期待に応えてくれるので要チェックです。サンチェ・ヴァイトハースという女性奏者がCD3枚で、協奏曲および関連作品を取りまとめてくれました。

しかも、最初に登場したのが1番じゃなくて2番というのも勝負かけている感じです。そのかわり、一緒に収録されているのは多少知られている「スコットランド幻想曲」ですから、ブルッフに興味がある者には嬉しい。

オーケストラも北ドイツ放送フィル、通称NDRで手堅い布陣です。指揮者のヘルマン・ボイマーは、元々アバド時代のベルリンフィルでバストロンボーンを吹いていた人。バラバラに順次発売されたものが、まとまった物が安く手に入ります。

第2番は、叙情的な1番と比べると迫力があって劇的な雰囲気。「ツィゴイネルワイゼン」の作曲者として有名なサラサーテのために作られ、独奏サラサーテ、指揮ブルッフで初演されています。第3番になるとオーケストレーションがさらにしっかりしてきます。いずれも第1番の影に隠れてしまっているのがもったいない。

ブルッフは、交響曲や合唱曲も作っていて、全体の曲数はそれほど多くはありませんから、是非「Bruch Complete Edition」を作ってもらいたものです。

2023年2月5日日曜日

N.Lahusen & R.Zubovas / Čiurlionis Complete Piano Works (1999-2008)

ヨーロッパ大陸の北部にはバルト海があり、外海の北海からの入口が大小の島々からなるデンマークです。北側はスカンジナビア半島で、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド。南側はドイツ、ポーランド、東のどん詰まりはロシアが囲んでいます。そして、ポーランドとドイツの間に挟まれた3つの国があり、バルト三国と呼びます。

バトル三国は、北からエストニア、ラトビア、リトアニアで、地政学的に不安定な緊張を強いられてきた歴史があります。音楽の世界では、現代で有名な作曲家アルヴォ・ペルト、指揮者ネーメ・ヤルヴィ、その子であるパーヴォ・ヤルヴィはエストニア出身。

リトアニア出身の作曲家で、知る人ぞ知るという存在が、ミカロユス・チュルリョーニス(1875~1911)です。普通のクラシック音楽愛好家は、たぶん手を出すことは無いくらいマイナー。

自分は以前にピアノ曲を漁っていた時に、たまたま知ってCDを買いましたが、興味深かったのは音楽ではなく絵画。音楽以上に有名なのが、300点ほど残されている何とも言えない不思議な景色・・・幻想的と一言で片づけられない、病的なものすら感じられる絵画です。リトアニア文化史の中では最重要人物なのですが、日本では1992年に初めて展覧会が開かれて紹介されました。

もともとロシアの影響下にあった時代に音楽家を目指し、ワルシャワ、ライプツィヒで学びましたが、20代なかばに美術学校に入りリトアニアの民族文化の保存に力を入れるようになります。しかし、徐々に精神異常が始まり療養所に収容され、36歳で短い生涯を終えました。

管弦楽曲、室内楽曲はそれぞれ数曲ありますが、残された楽曲のほとんどはピアノ独奏曲です。廉価版で何でもありで有名なNAXOSレーベルにもCDはありますが、自分が購入したのはCelestial Harmoniesという、アメリカの変わり種専門みたいなマイナー・レーベルの物。
1999年から2008年にかけて断続的に二人のピアニストによって網羅された、CD5枚からなる「ピアノ独奏曲全集」なんですが、今はAmazonではバラ売りしか見つかりません。

演奏者はCD3枚分がドイツのNikolaus Lahusen、残りがリトアニアのRokas Zubovasという人。いくつかアルバムを出しているようですが、情報量が少ないのであまりよくわかりません。

さて内容は・・・絵画と同じで何とも不思議な世界。はっきり言えば、たまにハッとするフレーズが無いわけではないのですが、それほど名曲として人に推奨するような物ではないという印象。全部で184トラックが収録されていますが、いずれも2分程度で短く、習作の域を脱するものはごくわずかだと思います。

いきなり、対位法でまるでJ.S.バッハのようなフーガで始まりますが、続くのがプレリュード、マズルカ、ノクターン、ワルツと来るのでショパンを意識している感じ。少なくともスラブ系の曲調はほとんど無さそう。

そうかと思うと、おそらく後年の作品は無調だったり、不協和音が入ってきたり、いかにも時代の音楽風になって来るのですがどれもが単調。唯一の大曲と言えるのが4楽章からなるピアノ・ソナタ。これも、ほぼショパン風と言えそう。一部の現代音楽風のものを除けば、耳障りは無い。まぁ、普通にBGMとして流しておくのには差支えはなさそうです。

さんざん文句ばかり言っているようですが、当然ながら一定水準以上、少なくとも他人が弾いてみようと思える物であることは間違いないし、こうやって実演してみるだけの価値はある音楽だろうと思います。ただ、普通の愛好家は知らなくても何も問題はありません。

2023年2月4日土曜日

立春


春が立つと書いて「立春」。

昼と夜の時間的な長さが同じという一瞬を迎えたことになります。天学的な事象で考えれば、ここから春になるわけですが、旧暦の暦だと、この時期に年が変わり新年となる(中国なら春節)。

季節が分かれるタイミングを節分と呼び、昨日が節分でしたが、いつの頃からか「恵方巻」を食べるというのが流行りだしました。

恵方巻は、縁起の良さそうな具材を詰め込んだ太巻きのことですが、そもそも恵方って・・・

まぁ、民間占い総集編みたいな陰陽道(おんみょうどう)で決まるもので、その年の縁起の良い方角の事。仏教は直接には関係ないわけで、信じる信じないは個人の自由です。

今年は南南西が恵方だったそうで、その方角を向いて黙って太巻きを食べた人がたくさんいたことでしょう。

食べても食べなくても、誰にも平等に春はやって来ます。とは言え、まだまだ寒い時期ですから、体調を崩さぬように注意しましょう。

2023年2月3日金曜日

自宅居酒屋 #53 長芋梅和え


材料さえあれば5分でできる、混ぜるだけの簡単レシピです。

長芋の食べ方をいろいろ考えていたんですが、やはりそのまま生で食べれる利点を使わない手はありません。

長芋は、食べたいだけ5mm程度の厚みで、太さによって1/2あるいは1/4に切るだけです。

さて、味付けも簡単。

梅干しです。種を取り除いたら、できるだけ細かく切って、ペーストにします。これをほぐすのにも白出汁を少々。量は、味を見て適当にでOK。

梅がほぐれたら、長芋を入れて和える。そして大葉のみじん切りを好きなだけ一緒ににすれば出来上がり。

いやぁ~、簡単でしょ!! でも、めっちゃ、旨い。

すぐ作ってみてほしいです。

2023年2月2日木曜日

Ronald Brautigam / Kraus Piano Works (2003)

ノルウェー、デンマーク、フィンランドときて、北欧4国の最後に残ったのはスウェーデン。スウェーデンと聞いて、真っ先に思い出す作曲家と言えば・・・ビョルン・ウルヴァース、というのは冗談(ABBAのメンバーです)。自分的には、歌手ですが、アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの出身地というのがポイント。

スウェーデンにはBIS Recordsというクラシック・レーベルがあって、特に日本人アーティストも比較的たくさんアルバムを作っているのでなじみ深い。特に鈴木雅明のカンタータ全集などを手掛けているし、ピアニストでも小川典子なども活躍しています。当然、北欧物はこのレーベルを外すわけにはいかない。

ただ、残念なことにスウェーデンの作曲家となると、よく知られた人はあまりいない。ニールセン、シベリウスらと近い時代には、ヴィルヘルム・ステーンハンマル、クット・アッテルベリという人が見つかりますが聞いたことが無い。

そこで、時代を遡って、古典派の頃。1756年、ドイツで生まれたヨーゼフ・マルティン・クラウスは、25歳の時にストックホルムの宮廷音楽家となり、多くの音楽を生み出しましたが、36歳の若さで病没。一般には、生まれた年も同じで「スウェーデンのモーツァルト」と呼ばれる存在です。実際に、モーツァルトとも面識があったようです。

当然、近世の北欧の作曲家と違い古典派らしい曲調が多いのですが、圧倒的に長調の軽快さが売りのモーツァルトと違って、やや短調の曲が多く音楽的な独特の響きが感じられるかもしれません。

ロナルド・ブラウティハムはオランダ出身ですが、現代のクラシック音楽界ではフォルテピアノ奏者として外せない存在です。フォルテピアノは、今のピアノの原型で、主として古典派の時代に使われた鍵盤楽器。一度この音にはまると、煌びやかで元気いっぱいの現代ピアノの音でモーツァルトやベートーヴェンを聞く気になりません。

当然、クラウスもフォルテピアノを使い、フォルテピアノを想定した作曲をしたはずですから、ここで聞ける音楽は250年前のスウェーデン王宮で鳴り響いていただろう音ということになります。

2023年2月1日水曜日

Simon Rattle / Sibelius Complete Symphonies (2015)

グリーク、ニールセンときて、もう一人忘れてはいけない北欧の有名な作曲家がいます。それがフィンランドのジャン・シベリウスで、1865年生まれ。

何しろ同時代の中では、全集ではCDで70枚を超える作曲量には驚きます。そして、絶えず隣接するロシアの脅威に晒され続けていたフィンランドでは、シベリウスの音楽が大衆の支えとなり、国の英雄として尊敬を集めています。

バイオリン奏者を目指し20歳からベルリンで修業し、作曲活動も本格化します。特にロシアからの独立を目指す愛国心を盛り上げる交響詩「フィンランディア」は代表作になりました。

そして、7つある交響曲は、今でも重要なコンサート・プログラムとして人気を誇っていますが、最後の第7番(1924年)を発表した数年後からは、まったくと言っていいほど活動を停止してしまいます。

1904年にヘルシンキ郊外のヤルヴェンバーに建てた自宅にこもり、公の場にもほとんど姿を見せませんでした。1957年に91歳で死去するまでの約30年間は、「ヤルヴェンバーの沈黙」と呼ばれています。本人もまったく語っておらず、作曲の筆をおいてしまった理由はわかりませんが、病的なものだけで説明しきれない何かがあると考えられています。

クラウディオ・アバドの後を継いで、2002年から2018年まで名門ベルリン・フィルハーモニーの首席指揮者兼芸術監督を務めたサイモン・ラトルは、1980年代にも当時の手兵国のバーミンガム市交響楽団と共にシベリウスの交響曲全集を完成させています。

ラトルは、2015年に再び集中的にシベリウスを取り上げ、二度目の全集を完成させ、ベルリンフィルのオリジナル・レーベルからの全集としてはベートヴェン、シューマンに続く物になります。

自分で買ったのは、CD 3枚に加えて、Blurauy 2枚に収録された全曲のライブ映像を含むセットです。これは、アバドのマーラーで経験したことですが、あまり馴染みがなかったクラッシでは、その中に入り込めるかどうかは映像の有る無しは大いに影響します。

シベリウスの交響曲は、もやもやした霧の中の音楽のような印象を持っていたので、音だけでは聞きこなすのは苦しいと思いました。でも、やはり映像付きは正解。めくるめく音の重なりがどのように構成されているのかは、ビデオでオーケストラ全体を見ながらだとわかりやすい。

ラトルは「マーラーは、人間と自然、とりわけ本人がテーマ。しかしシベリウスでは、人がそこにいるとは感じられない」と語っていますが、確かにそう感じます。少しずつ変化していく心地良いハーモニーとリズムが積み重なり、それは人の生活とは切り離された自然の営みと重なっていく印象です。

2023年1月30日月曜日

Paavo Jarvi / Nielsen Complete Symphonies (2009-2013)

カール・ニールセンは、デンマーク出身の作曲家。1865年生まれで、生まれが近いのはリヒャルト・シュトラウス、ドビュッシーなど。デンマークは、一般にはヨーロッパ大陸の北の端という認識ですが、スカンジナビア半島とヨーロッパをつなぐ要衝ですから、通常は北欧四国として扱われます。

デンマークの王立オーケストラでバイオリン奏者としてのキャリアが長いニールセンは、作曲した曲の中心は管弦楽曲。曲調は後年かなり進歩的だったため、堰か膳の評価は必ずしも高いとは言えなかったようです。1931年に66歳で亡くなりましたが、評価が高まったのは60年代以降にレナード・バーンスタインが取り上げてから。

やはり一番人気は6つある交響曲。とは言え、まだまだ全集を録音した指揮者はあまりいない模様。全集として定番は、現状ではブロムシュテットあたりでしょうか。でも、自分のチョイスは、パーヴォ・ヤルヴィ。オーケストラはフランクフルト放送交響楽団で、2009~13年に録音されました。

この組み合わせは、実に相性が良い。ヤルヴィ+フランクフルトのマーラーの全集のビデオ作品がありますが、こちらもなかなか優れもの。これらの作品の頃は主席指揮者だったので、当たり前と言えばそうなんですけど、お互いに敬意をもって接している感じが伝わってきます。

北欧の作曲家は、ロマン派台頭の時期に登場していることもあってか、ドイツ的ではないし、かといってスラブ系の民族色の強い雰囲気とも違う。もちろん、フランスの印象派のムード一色でもないし、やはり独特のメロディとかリズム何だろうと思います。

主張しずぎないので、ちょっと聞くと取り留めのない印象なんですが、どこか力強さを感じることが多く、少なくとも聞きにくい音楽ではありません。

交響曲ならベートーヴェンだ!! とか決めつけないで、詩情豊かな雰囲気のある大曲として、北欧の音楽も是非聞きたいものです。

Eva Knardahl / Grieg Complete Pino Works (1977-80)

クラシック音楽の作曲家というと、どうしてもドイツ、フランス、イタリアあたりが中心になるのは、歴史的にもしょうがない。でも、バロック、古典ときてロマン派が出現するころから、ヨーロッパ大陸の北の方にも後世に名を残した偉大な作曲家が登場しました。

エドヴァルド・グリーグは、ノルウエーの人。生まれは1843年で、年が近いのは東にチャイコフスキー、ドヴォルザーク、フランスにはシャブリエとかフォーレがいます。

さて、グリークと言えば、誰もが知っている一番有名な曲が組曲「ペール・ギュント」でしょう。「朝」のすがすがしさ、「魔王の広間」のメロディなどは聞けば絶対わかると思います。そして、ちょっとクラシックを聞く人なら、ピアノ協奏曲も有名。ひと頃テレビCMにも使われていました。

グリークの生まれたのはベルゲン。地形が名高いフィヨルドを下りきった北海に面した海岸沿いの街です。ライプツィヒに出て音楽を学び、20歳頃からデンマークで作曲活動を開始しました。ピアニストとして活躍する傍ら、オスロで指揮者を務めたりしつつ、民族性を重視した曲作りを特徴としています。1907年に故郷で病没、64歳でした。

一部の管弦楽曲を除いて、残された曲のほとんどはピアノ演奏曲と歌曲です。自分はよく知らずに、たまたまピアノ協奏曲も含まれているピアノ独奏曲全集を「安かったから」という理由でだいぶ前に購入していました。

演奏者はエヴァ・クナルダール。グリークと同じノルウェー出身のピアニストで、この全集が出るちょっと前に亡くなっているのですが、写真を見ると「おばちゃん」風。ところが、このおばちゃんはノルウェーの音楽界では重鎮で、かなり有名らしい。

グリークのピアノ全集というのも、これが世界初。1977年から80年にかけて録音されました。ものすごく世界中から高く評価されている全集なんだそうです。CD12枚という大ボリュームなんですが、グリークの代表作とされる伃情小品集が圧巻の冒頭3枚を占めています。ノルウェー、特にベルゲンの地域性に根付いた閉塞感、厳しい寒さ、だからこそ春の温かみの高揚感などが余すところなく表現されています。

続いてノルウェー民謡に基づく小品、舞曲集などが続きます。「ペール・ギュント」で、ちょっと一息。その後はまた同じような曲が続くので、悪くは無いのですが、さすがに一度に聞き続けるのは疲れそう。慣れるまでは、一枚づつ丁寧に聞き馴染んでいくのがお勧めです。

2023年1月29日日曜日

Khatia Buniatishvilli / Labyrinth (2020)

若手女流三大ピアニスト、と自分が勝手に思っている一人がカティア・ブニアティシヴィリ。ソビエト圏グルジア、今はジョージアと呼ぶ国の出身で、なかなか名前が覚えにくい。他の二人、アリス紗良オット、ユジャ・ワンと比べて、圧倒的なグラマラスな美女。


音楽家なんだから、容姿の事をとやかく言うのは無粋ですし、いまどきだとセクハラになってしまいますが、演奏中の動画などを見ると、本人は明らかにそこんとこを意識したタイトなドレス姿を披露しているので、評価ポイントの一部に入って来るのはいたしかたがない。

プーチンがウクライナ侵攻するかなり前から、プーチンの事が大嫌いなのは有名で、ロシアでは演奏はしないし、プーチン推しの演奏家との共演は拒否というから筋金入りです。

3人の中では一番遅い2010年にSony Classicalからメジャー・デヴュー。しかも、アリスと同じようにリスト・アルバムで、こちらは難曲ロ短調ソナタで勝負してきたのは恐れ入ります。当然、テクニック的には申し分ないわけですが、独自の解釈が強く曲に深く入り込んだ演奏が持ち味と言えそうです。

だからと言ってソロイスト向けというわけではなく、オーケストラとの共演などでの協奏曲での協調性は抜群ですし、ソロ・パートでの「らしさ」みたいな表現力は好感が持てます。

アルバムは、ソロ物と協奏曲物をバランスよく出していますが、間に若手バイオリンの旗手ルノー・カピュソン、ベテラン・バイオリンのギドン・クレメールらとの室内楽も挟み、順調な活躍ぶりと言えそうです。

目下のところ、最新作は2020年の「ラビリンス(迷宮)」ですが、最近のアーティストはクラシックと言えど、アルバムとしてのコンセプトをしっかり持っている。昔のように安易に作曲家や曲名だけのタイトルを付けることは少なくなりました。

このアルバムは、モリコーネ、サティ、ショパン、リゲティ、バッハ、ラフマニノフ・・・などなど、国も年代も違う作曲家のピアノ小品を集めたもので、一見ごちゃごちゃのように感じますが、聞いてみると全体の一体感があり、違和感はありません。かっこよく言えば、時空を超えて散歩するかのような音楽の迷宮に入り込んでしまったような楽しさです。

ベテランの過去の名演を楽しむのもいいですが、このような若手の新しいクラシック音楽へのアプローチは、音楽の命を未来につなぐものとして必要なことだろうと思います。